基本情報
- 日時:2022年12月20日(火) 11:30 - 12:30
- 会場:オンライン(Zoom)
- 話題:日本国民の「デザイン民度」を活かしたデザイン
日本国民の「デザイン民度」を活かしたデザイン
~ブルシットジョブ化が進むデザインを,豊かで魅力的なものに転換するためにも
素メモ|松岡由幸
- 日本国民の「デザイン民度」は高いとの指摘があり,これについては私もずっと感じていたが,本当にそういえるでしょうか?
- もし,日本国民,つまりデザイナーではない一般ユーザーが本当に「デザイン民度」が高いのであれば,それを活かした,日本独自の,新たなデザインの在りようはないのでしょうか?
- たとえば,日用品のような日常に使用され,構成要素の少ない小規模なデザインの一部は,徐々に一般ユーザーに任せるデザインの在りようなど.
- これは,従来の参加型デザインではなく,一般ユーザーが主役のデザインであり,一般ユーザーは,その「デザイン民度」を活かし,デザイン行為を享受することができます.特に,改良型のデザインや少し小奇麗にすることが必要とされるデザインなどでは,一般ユーザーでも対応が可能でしょうから,当面,それらを対象とするのもいいかもしれません.このようなデザインを,ここでは仮に「小さなデザイン」とここでは呼ぶことにしましょう.
- 私は,摂書「モノづくり×モノづかいのデザインサイエンス」の中で,『現在,3Dプリンタなどを用いたファブリケーションは発展を続けており,これにより,これまでの「つくる」と「つかう」の関係を再構築するべき時代がきている.』と述べています.そして,その「つくる」と「つかう」の新たな関係が,上記の一般ユーザーによる「小さなデザイン」を助長させることになると考えます.そう考えれば,この新たなデザインの在りようは,時代に合致しているといえるかもしれません.
- その一方で,専門家としてのデザイナーは,もっと芸術性の高い,あるいは構成要素の大きく,高度の科学技術を採用することで,難易度の高いデザインを対象としたいと,日頃,考えているのではないでしょうか.デザイナーは,従来にはない創発性と高い完成度を実現するデザインを生み出す仕事に移行していくことで,本来の能力を発揮したいのではないでしょうか?
- このことは,言い換えれば,レイモンド・ローウィの「口紅から機関車まで」の書籍名をもじり表現しますと,口紅側のデザインは一般ユーザーが少しずつ参加することで,自らデザインする.一方,機関車側のデザインは専門家としてのデザイナーがもっと創造的な仕事に専念する.そのようなデザインの在りようともいえます.
- そうすることで,一般ユーザーは「つくる」よろこびを享受するとともに,それは,「タイムアクシスデザイン」の目指す,モノを大切にし,長く使うという精神価値の醸成にも繋がるのではないでしょうか.
- また,専門家のデザイナーは,いわゆる「ブルシットジョブ化」が進み,単なる商業主義下の一歯車から抜け出し,「主体性」の獲得にも繋がり,デザイン職の「働きがい改革」の効果もあるかもしれません.