ー「人間と道具のあいだ」を拡張する創造プロセス

越後正志/芸術工学会

本発表は、非人間的存在の痕跡観察から生じる身体的応答を起点とし、道具を固定的な「物」から応答的な「関係の場」へと再定義する造形ワークショップの実践を報告します。これにより、従来の人間中心的な道具観では捉えきれない創造的相互作用を、痕跡を媒介として可視化します。

「応答的創造」という本研究の中核概念は、創造の起点を作者の内的意図のみに限定せず、他の生物が残した痕跡という外部要素に置くことで、主体性の分散と協働的な創造モデルを提示します。この観点から、ワークショップを「出会いの設計」、すなわち予期せぬものとの遭遇から創造的インスピレーションを得る機会として構想しました。

実践では「観察→感情記述→造形」の三段階プロトコルを採用しました。参加者は日常空間から蜘蛛の巣、植物の成長痕、動物の食痕などの痕跡を発見し、喚起される感情を言語化した後、アルミホイルによる造形へと展開しました。

全過程の記録と質的分析により、以下の変換パターンを確認しました。例えば、カラスによるゴミ散乱痕は罪悪感と共感を喚起し、素材を引き裂く荒々しい質感操作へと展開されました。また、アリの巣穴構造は引力と斥力の感知を促し、相反するベクトルを統合した立体構成を生成しました。これらの結果は、痕跡観察が感情的応答を経て独自の造形言語を創 出し、ワークショップが「痕跡と関係を結ぶ場」として機能することを実証しています。

今後は、触発性、媒介性、可塑性の三指標による評価体系を精緻化し、本手法の汎用性を検証します。触発性は痕跡が 感情や創造性を引き出す強度を、媒介性は人間・素材・環境をつなぐ機能を、可塑性は造形表現の多様性を測定します。 これらの指標化により、応答的造形という芸術実践が、人間中心的創造からの脱却と新たな創造モデルの構築に寄与する ことを明確化していきます。

(神山まるごと高等専門学校デザインエンジニアリング学科准教授)